(セミナーレポート)第2回 アカデミア臨床開発セミナー

「グローバルヘルスに関わるPDP*の現状と展望:我が国の医療展開のリバレッジとなるか」
* PDP(Product Development Partnership): 医薬品開発パートナーシップ

2022年8月5日、大阪大学大学院招聘教授、慶應義塾大学医学部訪問教授の中谷 比呂樹先生をお迎えし、第2回アカデミア臨床開発セミナーをオンラインで開催しました。
中谷先生は、公衆衛生における40年以上の経験を持ち、公衆衛生、国際保健など幅広い分野でご活躍されてこられました。現在は、大阪大学大学院招聘教授、慶應義塾大学医学部訪問教授として教育研究に従事される他、世界保健機関 (WHO) 執行理事、厚生労働省国際参与、グローバルヘルス技術振興基金理事長など国内外のさまざまな機関で活動されています。
こうした幅広いご経験から、今回のセミナーでは、グローバルヘルスに関わるPDPの現状と展望についてご講演頂きました。

まず最初に、2022年5月に開催されたWHO総会の主要議題について、ウクライナ関連決議、健康危機管理の評価、持続可能な財政の確保などが協議され、多様化するグローバルヘルスの様々な課題に対する政策が決定されたとのご説明がありました。
また、現在のグローバルヘルス領域では、より安全な世界、より健康な世界、よりグリーンな世界、より公平な世界を目指して、疾病の国際的伝播を最大限防止するための国際保健規則 (IHR: International Health Regulations)の改正に向けた動きや、100DM(100 Days Mission)という100日でワクチンを作り世界に分配する取り組みなど、様々なグローバル戦略の策定に向けた動きがあるとのことでした。

次にグローバルヘルスに対する「COVID-19の衝撃(新しい技術・医薬品を迅速に人々に届ける仕組み)」について話されました。
ここ数年のCOVID-19のワクチン開発においては、欧米の大手製薬企業はベンチャー発のシーズをいち早く取り込み、迅速な臨床開発により実用化に結び付けることに成功したが、一方、日本では、そのような機動的な対応を取ることができずワクチン・治療薬の国内開発が大幅に遅れ、医療データに基づく政策立案も瞬時にできないなど、研究開発から実用化までのプロセスの体系的な弱点が浮き彫りになったとのことでした。
こうした健康危機は経済危機の引き金となり、ひいては国家保障上の問題になる恐れがあることから、今後は、医療・公衆衛生分野の国際的な包括的な連携が不可欠であり、危機に対する柔軟な対応力(resilience)も必要とされるであろうと述べられました。

続いて、日本の医薬品のエコシステムとして、デビル循環とエンジェル循環について述べられました。
人口減少によりマーケットが縮小するとイノベーションの意欲が低下し、新製品も上市されなくなり医療の質が低下し更に人口も減っていくというデビル循環をエンジェル循環に転換するには、マーケットの縮小に対しては国際展開を図り、イノベーションの意欲低下については国際分業により研究開発の効率を上げるなどの新しい社会モデルを作っていく必要があるとのことでした。

最後に医薬品のエコシステムにおけるPublic-Private Partnership(PPP)の役割について述べられました。
パートナーシップには様々な類型があり、研究開発を目的としたGHIT FUND、結核の啓発・啓蒙を目的としたStop TB、財政支援をするGlobal Fund、低所得国への医薬品調達を支援するGAViなどがあり、それぞれの役割について説明されました。
例えば、GHIT FUNDは、日本の技術により開発途上国の感染症の患者さんのために製品開発を推進する日本初の国際的なPPPであり、官がもたらすメリットとして資金の安定、法治の確立など、民がもたらすメリットとして、官の資金をシェアすることで民からの投資が引き出せる点や民間の活力・イノベーション力の活用などが挙げられました。
このようにパートナーシップを組むことでシナジー効果が期待できるので、技術の実用化に際してPPPを戦略的に使うことは価値があるとのことでした。

以上のとおり今回のセミナーでは、中谷先生からグローバルヘルスに関わるPDPの現状と展望についてわかりやすくご講演いただき、活発な質疑応答も行われ多数の参加者を得てセミナーは盛況裏に終了しました。

 

次回のアカデミア臨床開発セミナーは2022年9月30日(金)に、「医療研究開発における患者・市民参画:AMEDにおける「社会共創」推進の取組として」をテーマに、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 研究公正・業務推進部 勝井 恵子氏、特定非営利活動法人ASridより西村由希子氏をお招きしてご講演頂く予定です。
次回も沢山の皆さまのご参加をお待ちしております。

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