(セミナーレポート)第4回 アカデミア臨床開発セミナー

「新型コロナに対する取り組み~製薬企業の医薬開発の立場から~」

2021年11月19日、塩野義製薬株式会社 上席執行役員 医薬開発本部長の岩崎 利信先生をお迎えし、第4回アカデミア臨床開発セミナーをオンラインで開催いたしました。
岩崎先生はこれまで製薬企業の研究開発、薬事及び信頼性保証に携わってこられ、今回のセミナーではその幅広いご経験を基に、「新型コロナに対する取り組み~製薬企業の医薬開発の立場から~」と題してご講演いただきました。

まず、「COVID-19のワクチン開発~日本と欧米との比較~」についてご説明がありました。
海外先行のワクチンは着手から1年強で実用化されるという驚異的なスピードで開発が進められており、例えば米国のファイザーでは2020年4月にPhase1/2開始、その約3か月後の中間発表時点でPhase2/3が開始され、同年12月の中間解析での発症抑制率95%という結果を以て緊急使用許可(EUA)が取得されたとのことでした。
こうした米国における早期開発の背景には、(1) COVID-19の産官学連携プロジェクトであるワープスピード作戦の実施や(2) 平時からのパンデミック等緊急事態への国家体制*の整備や資金援助があるとのことでした。*:DARPA(国防高等研究計画局)、 BARDA(生物医学先端研究開発局)更にブースターや小児接種、FDAとCDCの連携による安全性情報の収集などの先を見据えた対策がなされているとのことでした。

一方日本では、AMEDの資金援助を得て産学連携で製薬企業5社による純国産ワクチンの開発が行われているものの未だ実用化されたものはないとのことでした。
海外に比べて純国産ワクチンが出遅れた背景には、パンデミック等を想定した平時からの備えの違い、EUAのような有事を想定した制度や仕組みの有無の違いがあるのではないかとのことでした。
また、従来からの課題として、日本における訴訟のリスクや感染収束による事業機会の消失といった事業のリスク、ワクチン接種に対する国民への啓発不足についても述べられました。

こうした遅れを挽回するため、国家戦略として「ワクチン開発・生産体制強化戦略」が取りまとめられ、また、ICMRA(薬事規制当局国際連携組織)でグローバルコンセンサスが得られた指針に基づき、新型コロナウイルスワクチンの評価に関する考え方がPMDAから示されたとのことでした。
この考え方において、今までのプラセボ対照で発症抑制を評価指標とした試験に代わり、中和抗体価を評価指標とした既承認薬との比較による有効性検証試験が認められたことで、治験の実施可能性は非常に高くなったとのことでした。

次に、AMED支援のもと塩野義が産学連携で開発している遺伝子組換えタンパクワクチン「S-268019」の開発状況についてご説明がありました。
ワクチン開発特有の課題として、例えば感染者数の予測困難性、アジュバントとの組み合わせによる有効性の製剤検討、接種後の時間経過に伴う抗体価減少による有効性の検討、他社製剤の接種による母集団の減少など様々な課題があり、それらを解決しながら現在Phase2/3を完了し、その結果を踏まえて実薬対照中和抗体比較試験代替試験の試験デザインを複数検討し準備を進めているとのことでした。

また、国内におけるCOVID-19治療薬については、海外の承認を前提とした特例承認が行われており、現在6剤が既承認になっているとのことでした。
塩野義でも新たな変異ウイルスや次のパンデミックにも対応できる経口抗ウイルス薬(3CLプロテアーゼ阻害薬、開発番号:S-217622)のPhase2/3が現在実施されており、早期承認に向け様々な取り組みが行われているとのことでした。
例えば、自治体の協力を得たホテル治験、在宅治験など新しい治験形態の採用など今後の道筋が示されました。
更に国内の感染状況の変化への対応として、登録加速に向けた韓国、シンガポールなどアジアへの治験拡大も準備しているとのことでした。

次に、「有事対応力の強化に向けて」について国家安全保障の観点から、(1)純国産ワクチンの必要性(安定供給、変異株への迅速な対応、国際貢献)と(2)感染症への平時からの備えの必要性についてご説明がありました。
また、COVID-19だけでなく、「三大感染症」、「顧みられない熱帯病」、「薬剤耐性(AMR)」などにも産官学で取り組んでいく必要性について述べられました。
特にAMRに起因する死亡者数は、将来的にはがんによる死亡者数を超えるとの報告もあり、地球規模で取り組むべき社会課題であるとのことでした。
一方で、収益予見性の低さから多くの企業が感染症領域の研究開発から撤退しており、感染症治療薬開発は世界的に縮小しているとのことでした。
そうした環境下においても塩野義では、多剤耐性グラム陰性菌感染症治療薬「セフィデロコル」の研究開発を推進しており、日本に先駆けて欧米では既に承認取得されたとのことでした。

最後に「日本は米国と伍して戦えるか?」「日本でイノベーションがおこせるか?」については、強い副反応を許容できるか、ロジスティックスの投資がどこまでできるかなど、制度、コストだけでなく、日本の倫理感、歴史、社会通念も含め、日本でできるイノベーションを考える必要があるとのご説明がありました。

このように今回のセミナーでは、岩崎先生からCOVID-19ワクチン及び治療薬の開発に関する製薬企業における最前線の情報をわかりやすくご講演いただき、活発な質疑応答も行われ105名の参加者を得てセミナーは盛況裏に終了しました。

次回のアカデミア臨床開発セミナーは2022年1月14日(金)に、「アジアにおける医療機器の展開」をテーマにクアルテック・ジャパン・コンサルティング株式会社 村山 剛先生をお招きしてご講演頂く予定です。
次回も沢山の皆さまのご参加をお待ちしております。

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