(セミナーレポート)第2回 アカデミア臨床開発セミナー
7月16日(金)、第2回 アカデミア臨床開発セミナーをオンラインで開催しました。今回は、二部制で開催しました。第一部は「製薬企業でのプロトコル作成プロセスについて」をテーマにブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)の本堂 大祐先生、古別府 恵先生、第二部は「医薬品開発におけるバイオマーカー戦略の重要性」をテーマに日本ベーリンガーインゲルハイム(NBI)の多々見 真司先生にご講演頂きました。
第一部において、まず、当該治験のリソース(予算、担当者のアサイン)確保のためのプロセスとして、社内において治験のコンセプトが立案された後に治験の種類、規模に応じて必要な予算、人的リソースなどが考慮され、社内のガバナンスにより優先順位付けされることが説明されました。立案したコンセプトが承認されれば、翌年以降に治験の概要(シノプシス)・プロトコル作成が可能になります。この治験コンセプトの承認のプロセスは年1回、約9か月かかると説明がありました。
次に、予算・人的リソースが確保された治験について、具体的にプロトコル作成のプロセスに移行します。執筆チーム(試験責任者、メディカルライター、医学専門家、試験実施責任者、生物統計家など)は、20から30頁で構成される治験の概要(シノプシス)を作成し、レビューチーム(生物統計部門責任者、当該領域責任者等)によるレビューを受け、コメント対応を行います。コメント対応に了承されないと実際のプロトコル作成のプロセスに進めないことになっているとのことでした。さらに、シノプシスを詳細化したプロトコルが立案され、再度、レビューチームによるレビューに続き、執筆チームによるコメント対応が実施されます。プロトコルが最終的に承認されると、試験番号等が付され、プロトコルは保存されます。シノプシス、プロトコル承認のプロセスにはそれぞれ2か月程度かかるとの説明がありました。アカデミアにおけるプロトコル作成のプロセスとは投入される人材とレビューのプロセスで異なることが良く理解できました。聴講者との質疑応答に続いて、第二部が実施されました。
バイオマーカーとは、客観的に測定され評価される特性値であり、治療措置に対して薬理学的の指標として用いられるものを指します。バイオマーカー戦略の重要性が製薬業界に浸透したきっかけは、アメリカ食品医薬品局(FDA :Food and Drug Administration)による開発戦略の効率化の提唱によります。医薬品開発における臨床後期での成功確率をあげるためには、臨床早期において作用機序に基づくバイオマーカーによる有効性の予測、あるいは有効性を高めるため(個別化医療のため)の患者選択に資するバイオマーカーが必要となると説明されました。臨床開発早期(探索段階)に、如何により多くの情報を得て、大きな投資が必要になる臨床開発後期に進むことができるようにするために、バイオマーカー戦略は重要です。すなわち、バイオマーカーは、医薬品開発のGo/No-go の決定に重要な役割をはたすとのことです(”Biomarker- guided clinical development”)。
これらのバイオマーカーの探索に、多くの人的リソースや予算を割いているとのことです。すなわち、シーズの探索段階から既に多数の領域の専門家のチームでバイオマーカーの探索がなされ、開発が進むごと、データの蓄積がなされるごとに、より適切なバイオマーカーの絞り込みを継続するとのことです。
製薬企業は、少しでも成功確率を上げるためのバイオマーカー戦略を実践しているので、アカデミアにおける医薬品開発の際、どの程度バイオマーカーの検討をしているかについて共同研究やシーズの選択の決定に重要な因子であると述べられました。
製薬企業によるバイオマーカー検討の事例として、アルツハイマー型認知症に対するBACE1阻害剤開発における脳脊髄液中のAβ40やグリオブラストーマに対する養子免疫細胞療法における画像診断(PET、シンチグラフィー)が紹介されました。
今回のセミナーにおいて、製薬企業における医薬品開発のプロセスを、プロトコル作成およびバイオマーカー戦略から学ぶことができました。医薬品の開発において、企業は十分な人的リソースと多額の研究費を投入しています。アカデミアにおける医薬品開発の環境とは異なることが明らかになりました。したがって、アカデミアにおいて医薬品の開発を実施する際には、これらの違いを認識する必要があると考えられました。
次回第3回のアカデミア臨床開発セミナーは、2021年8月20日(金)に、「PMDAにおける国際協働に向けた取り組みとアジア医薬品・医療機器トレーニングセンター(PMDA-ATC)の活動」をテーマに、緒方映子先生をお招きしご講演頂く予定です。皆さまのご参加をお待ちしています。
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