(セミナーレポート) 第3回アカデミア臨床開発セミナー
「創薬ベンチャーによる希少疾病用医薬品開発の取組みと課題について」

今年度3回目のアカデミア臨床開発セミナーは、10月12日(金)にノーベルファーマ株式会社研究開発本部長の島崎茂樹氏をお迎えし、最先端医療イノベーションセンター棟マルチメディアホールで開催しました。本セミナーは当初8月に予定されていましたが、台風直撃の影響により延期となっていたものです。

島崎先生には「創薬ベンチャーによる希少疾病用医薬品開発への取組みと課題について」というタイトルで、ノーベルファーマ社においてこれまで取り組んでこられた希少疾病用医薬品開発について詳しくご紹介いただきました。

ご講演の冒頭で、既に17件以上の薬事承認の取得実績を有するノーベルファーマ社は当局からももはや創薬ベンチャー企業ではないと指摘されているとのお断りがありました。2003年の同社創業以来、短期間でこれだけ数多くの製造販売承認を取得される例は稀有であり、「必要なのに顧みられない医薬品・医療機器の提供を通じて、社会に貢献する」という同社のミッションと独特な研究開発体制をご紹介いただきました。同社はR&D(研究開発)のR(研究)を持たずに「目利き」によってD(開発)だけを担当し、経験豊富な比較的高齢の人材(社員の中央値:57歳)を中心とした開発態勢で同社のミッションの実現に邁進されているとのことでした。

希少疾病用医薬品指定制度や先駆け審査指定制度といった国の制度の詳しい解説をはじめ、これらを利用して、アカデミアのみならず規制当局である厚生労働省やPMDAをはじめ医薬基盤研究所などの公的機関を巻き込んで開発をスムースに進める同社の開発戦略・開発方針について、①ラパリムス錠剤(リンパ脈管筋腫症)、②ラパリムスゲル剤(結節性硬化症)、③チタンブリッジ(痙攣性発声障害)の具体的な3品目を例に詳しく紹介されました。

これらの開発成功のポイントとして、ノーベルファーマ社が開発に着手する前にいずれも臨床研究等により有効性と安全性が確認されていたことや治験責任医師の熱意をまず挙げられると共に、その後の開発に対する公的資金や助成金の獲得もその推進力として挙げられました。希少疾病の治療薬はその採算性や事業性から大手製薬会社は参入し難いと当時は言われており、公的資金による開発の意義が強調されました。また同時に学会や患者会の積極的な支援も開発に欠かせないとのことでした。

創薬ベンチャーとして、R(研究)を基にした大手製薬会社へのD(開発)のライセンスアウトを目指すビジネスモデルではなく、アカデミアの橋渡し研究とも少し異なる、アカデミアの基礎研究成果を公的資金を利用しながらD(開発)し、M(製造販売)するというノーベルファーマ社の先進的なビジネスモデルは創業以来ユニークな存在であると共に成功例として注目を浴びています。

ご講演の最後で島崎先生は、製造販売後の市販後安全管理(市販後調査等)の経済的負担にも触れられ、承認取得が利益には直結せずに赤字のケースもあり、他の品目の利益で補っているのが現状であると述べられました。

希少疾病を代表として、経済原則は成立しないものの「患者・社会が必要とする医薬品・医療機器の開発」こそ公的資金やアカデミアの努力で成すべきものであり、厚生労働省を中心としてAMEDやPMDAと一体になって種々の先進的制度を活用しながら必要とされるものを患者に届ける努力の重要性を再認識させられたご講演でした。

ご講演後の質疑の中でも、フロアからこれまでの努力と実績に対して敬意が示され、今後もアカデミアシーズの受け皿としての期待が述べられ拍手とともに閉会となりました。

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