(セミナーレポート) 第6回アカデミア臨床開発セミナー
治験実施計画書作成時に考慮すべき主な事項について ~承認審査に携わる医師の視点から~

今年度6回目のアカデミア臨床開発セミナーは、2月15日(金)に医薬品医療機器総合機構(PMDA)新薬審査第2部の「品川 香」先生をお迎えし、最先端医療イノベーションセンター棟マルチメディアホールで開催しました。品川先生は医学部ご卒業の後、カナダへのご留学経験等を経てPMDA設立の翌年平成17年から新薬の製造販売承認の審査をはじめRS戦略相談の対面助言等も担当しておられます。ご専門は循環器内科(不整脈)で、ICH-E14(QT/QTc間隔の延長)にも深く携わって来られました。

ご講演冒頭で、PMDAにおける承認審査の基本的な考え方やPMDAチーム審査の実態をご紹介いただき、特に医師の立場でアカデミアの医師主導治験の計画書作成時の注意点について審査をする立場からご説明をいただきました。海外と比べ、日本のアカデミアは基礎研究に強く、これを実用化に生かすためのPMDAのコンサルテーションを組み込んだ「先駆け審査制度」もご紹介されました。また、基礎研究から実用化に至るいわゆる「死の谷」を越えるためのサポートとしてPMDAのRS戦略相談制度を早期から利用することが重要だと強調されました。平成29年度には500件を超える総合相談/事前面談がなされ、同年度に対面助言に至った件数も100件を大幅に超えている実態もご紹介いただきました。

新薬の承認は、「品質」はもとより「有効性」と「安全性」のリスク/ベネフィット評価の観点でなされ、審査側の留意事項として、①資料の信頼性、②適切にデザインされた臨床試験で有効性がプラセボより優れること、③臨床的意義、④ベネフィットと比較して許容できないリスクが認められないこと、⑤品質確保と恒常的な供給、の5点を挙げられました。特に、複数の臨床試験の成績に基づき、薬剤の有効性が再現性を以て示される必要があり、結果の信頼性を担保するため、原則として「2本以上の無作為化比較試験」において有効性が検証されていることが望ましいと審査の基準を述べられました。承認審査のポイントとして、適応疾患・対象患者の特長や新薬の臨床的位置づけの観点でリスク/ベネフィットが評価され、致死的疾患か否かをはじめ臨床現場のニーズ(既存・標準治療との比較)がとりわけ重要とのご指摘でした。

従って、臨床試験のデザインを考える際には、①対象集団の妥当性、②用量設定の根拠、③有効性の評価法、を吟味する必要性を述べられました。被検者集団の定義は選択基準や除外基準と直結し「薬剤の効能・効果」に含まれる全対象集団を代表しなければなりません。開発相に応じた有効性の評価項目の設定が重要となりますが、検証試験における有効性評価では臨床上の効果を的確に反映し臨床的に意義のある「真のエンドポイント」でなければならないことが理解できました。

臨床第Ⅱ相試験(用量設定試験)ではサロゲートエンドポイントを用いる場合があります。しかし、対象疾患の真のエンドポイントは何かを明確にして、真のエンドポイントとの関連が明らかであるサロゲートエンドポイントを用いなければならないことを強調されました。真のエンドポイントとの関係が不明で、臨床試験でバリデートされていないエンドポイントを用いた場合、重大な問題が生じることも強調され、複数の問題実例(海外事例)もご紹介いただきました。また、循環器領域でサロゲートエンドポイントとして確立している評価法は、循環器系では「スタチン系薬剤のLDL-コレステロール」ともう一つは「血圧」の二つだけであり、なかなか検証試験で用いることができるサロゲートエンドポイントは無いことが紹介されました。

そこで、アカデミアが担当可能な早期臨床試験(探索的な試験)では出来るだけ多様で多くの副次評価項目を置くことを推奨されるとともに、とりわけ、希少疾病等の患者数が限られる場合の臨床試験では、最小の被検者数とリソースで最大限の精度を確保しバイアスの少ない公平で明確な結果を得られるように、①試験の目的を明確にすること、②プラセボ群(参照群)の必要性(同一症例の被験薬投与前後の比較は避ける)、③ベースライン時の群間の偏りを避ける、④用量反応性(単用量試験で有効性が示されない場合に用量不足か期待される薬効が無いのか判断できない)等の慎重に考慮すべきポイントが詳細に説明されました。

ご講演後もフロアから数多くの質問が出されました。アカデミアの先生方に特に興味のある新規のサロゲートポイントの開発法について、また臨床試験をコンパクトにする目的のサロゲートマーカーの利用に関する質問に対して、検証試験における真のエンドポイントの重要性を再認識する必要性と同時に、アカデミアが担当する早期探索的試験では数多くの副次評価項目を設定することを再度強調されました。その他、一つ一つの質問に丁寧にご回答を頂き、拍手とともに閉会となりました。

次年度もアカデミア臨床開発セミナーを継続する予定ですので決定次第ご案内申し上げます。 今後も多数のご参加をお待ちしております。

 

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