(セミナーレポート)第2回アカデミア臨床開発セミナー
「研究倫理指針の改正について」

2020年8月21日、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部未来医療センター講師の平将生先生をお迎えし、第2回アカデミア臨床開発セミナーを開催いたしました。

本テーマでのご講演は、当初昨年度3月に予定しておりましたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響によりやむなく中止とさせて頂きました。しかしながら同テーマでの開催に多くのご要望を頂き、今回は、新型コロナウィルス感染拡大防止策を十分に講じたうえで対面とオンラインの併用で開催する運びとなり、これまでにない90名を超える方々にご参加頂きました。

平先生は厚生労働省大臣官房厚生科学課に出向中から、厚生労働省が所管する研究倫理指針(人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(以下医学系指針)、およびヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(以下ゲノム指針))の改正に携わっておられます。そのご経験から、セミナーでは注意すべきポイントを交えながら、研究倫理の基礎となる考え方をはじめとして、次の4項目についてわかりやすくご講演頂きました。1) 指針の概要、2) インフォームド・コンセントの手続、3) 個人情報の取り扱い、4) 指針改正に向けての検討状況。

まず、指針の概要については、医学系指針、ゲノム指針それぞれの基礎となった考えの中から特に重要な点(医学系指針については、ヘルシンキ宣言「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」の一般原則から、ゲノム指針については、ヒトゲノムと人権に関する世界宣言からの抜粋)をご紹介頂き、さらに両指針の策定経緯から基本方針、研究計画書の記載事項についてご説明頂きました。

指針の細かい点まですべてを理解することは難しいかもしれないが、指針に書かれていることは医学系研究を実施するうえで守って頂きたい基本原則であり、大事な点を十分に理解したうえで研究を実施して頂きたいと述べられました。

次に、インフォームド・コンセントの手続についてお話し頂きました。研究を実施するうえで、利用するサンプル・情報が個人情報に該当するのかどうか、および既存試料・情報なのか新たに取得する試料・情報に該当するのか、それらの定義をしっかりと理解し必要な手続きを取ることの重要性をご説明頂きました。両指針ともにフローチャートを用いて丁寧にご説明頂きました。

さらに、個人情報とはどういうものか、具体例とともに定義を詳しくご説明頂きました。個人情報を取り扱う際に適用される法律は民間分野と公的分野によって異なり、さらに公的分野の中でも研究機関により適用される法律が異なります。研究倫理指針では、複数施設間での共同研究において、適用される法律が異なることで不具合が生じないよう統一的なルールを定めています。どこの研究機関に所属していても、医学系研究、ゲノム研究を行ううえで研究倫理指針を遵守することの必要性をご説明頂きました。

最後に、指針改正に向けての検討状況について、現在も厚生労働省大臣官房厚生科学課参与として指針改正に携わっておられるご経験から最新情報を交えお話し頂きました。近年、医学系研究を実施しながらゲノム解析を行う研究が増えていることから、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省合同会議のもと、両指針の見直しを検討した結果、医学系指針を基本として両指針を統合し、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」とする方向性が決定されました。研究者が流れに沿って読めるよう構成を変えている、など具体的に統合指針策定に係るポイントをご説明頂きました。

日本では、臨床研究を実施するうえで制度が乱立し、それぞれの線引きがよくわからない現状のなか、医学系指針、ゲノム指針のコンセプトには、どんな研究をどんな制度に則って実施する場合でも基本的な考え方が含まれていると、その重要性を述べられました。

質疑応答では会場から多くの質問を頂き、活発な議論も交わされました。平先生からは、指針統合の際、常に海外情勢を意識して作業をしているが、医療情報に関する個人情報を取り扱う規制など考え方が全く異なることもあり、実際にはなかなか取り入れられないとの現状も教えて頂きました。ただ、個人情報の取り扱いについては海外共同研究を行ううえで障害となっているという声も聞こえており、とても重要なポイントであると述べられ、今後、改正の動向に注目したいと思います。

文字を読むだけでは難しいと感じてしまう指針ですが、実際に改正に携わっておられる平先生から具体的なポイントをお伺いできるとても貴重な機会となりました。

次回のアカデミア臨床開発セミナーは10月2日(金)、アカデミアにおける知財戦略をテーマに共創機構知財戦略室の藤澤幸夫先生をお招きしてご講演頂く予定です。

次回も皆さまのご参加をお待ちしております。

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